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教来石小織さん
(NPO法人 World Theater Project代表)前編

子どもたちに“夢の種”を届けたい! 途上国で映画を上映

教来石小織さんが代表を務めるNPO法人World Theater Projectは、カンボジアを中心とした途上国の農村部で、子どもたちのために映画を上映する団体です。

教来石小織さん

1981年生まれ。千葉県佐倉市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。派遣の事務員をする中で、2012年よりカンボジア農村部の小学校で移動映画館による上映を開始。1児の母。著書に『ゆめの はいたつにん』(センジュ出版)がある。

設立は2012年。多くの方の協力のもと、これまで15か国約8万人の子ども達に映画を届けてきました。

「世界中の子どもに映画を届けることが目標です。より多くの子に観てもらうために、移動映画館という形で小学校や広場などに機材を持ち込み上映しています」

カンボジアでは2人のカンボジア人を“映画配達人”として雇用し、副業として定期的に上映会を開いてもらっています。ほかの国では、現地に滞在する日本人に“映画配達人”役を委託しています。

 
▲カンボジアの“映画配達人”たちと教来石さん

上映するのは日本のアニメーションが中心。上映権を得て、文字が読めない子どもでも映画を楽しめるよう、自分たちで現地の言葉に吹き替えています。バングラデシュでの映画配達人を担っている原田夏美さんは、ベンガル語と少数民族の言葉、さらにロヒンギャ難民キャンプで上映するためにロヒンギャ語での吹き替えも行いました。


▲映画に夢中な子供たちと一緒に

「映画を通していろいろな世界を知ることで、子どもたちが自分なりの夢を持てるようになると信じています。だから私たちは映画を届ける活動を“夢の種まき”だと思っています」

派遣社員、経験なし、資金なし。ゼロからNPOを設立

教来石さんは千葉県佐倉市出身。もともと映画が好きで、映画監督を目指し大学では映画学科に進みました。

「授業の一環でドキュメンタリー映画を撮りにケニアへ行ったとき、現地の子どもたちに将来の夢を聞いてみたんです。でも“夢?”ときょとんとするばかりで、答えはほとんど返ってきませんでした。後日、ふと、世の中にどんな仕事があるのかを知らないから、あの子どもたちは夢を描けないのではないか。そう思いつきました。もしケニアのあの村に映画館があって、子どもたちがいろいろな世界を知ったらどんな夢を見るのかな、と。でもそのときは、思いついただけに留まりました」

やがて卒業し、派遣の事務員として働くなかで30歳を過ぎたころ、がん検診で「要精密検査」の通知を受け取りました。結果的にがんではなかったものの、教来石さんは死の影を感じ、自分の人生を考える時間を過ごしたといいます。

「そのときに、途上国の子どもたちに映画を届けたいという思いが舞い降りてきたんです。“途上国=カンボジア”という先入観が私の中にあったのか、行ったこともないカンボジアに届けたいと思いました。私は人と話すのが苦手ですが、とにかく現地の状況を聞こうと、カンボジアに行ったことがある人に片っ端から連絡をとりました」


▲2014年3月、リエンポン村小学校にて(撮影:五百蔵直樹)

その中で活動に興味を持ってくれる人が現れ、2012年に貯金をはたいてカンボジアに向かいました。

伝手をたどって協力を得たシェムリアップ州の日本語学校での初めての上映会は、シーツをスクリーン代わりに使った手作りのイベントでした。でも、集まった子どもたちは初めての映画にハラハラしたり、笑ったり。子どもたちの世界が広がっていく手応えを、そこで得たそうです。

原動力は“子どもが好きな道を歩める世界に寄与したい”の思い。それから…

帰国後、活動を継続させるために支援者や協力企業集めに奔走し、2014年にNPO法人に。2017年には、移動映画館の縁で知り合った俳優の斎藤工さんの提案により、クラウドファンディングで資金を募ってオリジナルアニメ『映画の妖精 フィルとムー』を製作。並行して、会費やイベント事業等の収益で移動映画館事業を運営する仕組みを整え、カンボジアでは年間1万人の子どもに映画を届けられる体制になりました。

これまでを振り返って、最も大変だったのはどんなことでしょうか。

「いっぱいありますが、お金の問題でしょうか。しばらくは自分の貯金を崩して活動していて、口座の残高が400円になったこともあるんです(笑)」

それでも前進してこられたエネルギー源は何だったのか尋ねると、少し考え言葉を紡いでくれました。

「世界を変えたいとは思わないのですが、世界をより良くしたいと思っています。より良い世界はどんな世界かという答えが私の中にあって、すべての子ども達に“好きな道を選んでいいよ”と言える世界なのかなと思います。人類誕生以降、人は少しずつ、時に後退したりもしながら、そちらの方角へ進んできました。今も世界中で多くの方がSDGsやLGBTの運動、気候変動の問題など様々な課題に取り組まれていますが、すべての課題が解決できた先にあるのは、すべての子ども達に好きな道を選んでもらえる世界なのではと思います。より良い世界に進むために、この活動は寄与できるという確信があるんです。あとは自分がこの活動にしか情熱を燃やすことができないという、私のエゴですね(笑)」

 
▲2015年9月、コンポンクダイ小中学校にて(撮影:黒澤真帆)

そして2020年。せっかく軌道に乗った活動が、コロナ禍でストップする事態になりました。

(後編に続く)

関連リンク

▼World Theater Project
https://worldtheater-pj.net/

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