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教来石小織さん
(NPO法人 World Theater Project代表)後編

コロナ禍で上映がストップ! 解散も検討…

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2020年1月、教来石小織さんは人気番組『セブンルール』(フジテレビ系)に出演しました。反響は大きく、「この波に乗って20か国での上映を目指そう」とメンバー一同が勢いづいていたところ…。世界中がコロナ禍に見舞われ、海外渡航もイベントもできなくなってしまいました。

教来石小織さん

1981年生まれ。千葉県佐倉市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。派遣の事務員をする中で、2012年よりカンボジア農村部の小学校で移動映画館による上映を開始。1児の母。著書に『ゆめの はいたつにん』(センジュ出版)がある。

「私たちは、みんなが集まって一緒に映画を見ることを大切にして、上映会を開催してきました。誰かと感動を分かち合えることも映画の魅力だからです。しかし、それが人を死に追いやりかねないと思うと怖くなりました。こんな状況で会費を集めることもよくないと思い、団体をたたもうと考えたんです」

そんな教来石さんが継続を決意したのは、2つの要因からだといいます。

「1つは、メンバーの熱意です。“たたまずに休むことにしたらどうか”“この時期をコロナ後の活動の準備に充てよう”などと提案してくれ、私だけの判断で団体を閉じることはできない段階にきていると気づきました。

もう1つは、支援してくださる方々からのお声です。映画に救われた体験を話してくださる方、“映画は不急なものですが、決して不要ではありません”と言ってくださる方、寄付の継続を申し出てくださる方。温かい言葉に励まされ、続ける決意をしました」

さらに――。カンボジアで活躍している映画配達人第1号は、右の手足にハンディキャップを抱えたトゥクトゥク(三輪タクシー)ドライバーの40代半ばの男性です。決して恵まれた境遇ではありませんが、小学校で子どもたちの笑顔に迎えられ、教員たちと対等に話す中でやりがいと誇りを見出し、今や自信満々の顔つきになったといいます。

教来石さんが信じた夢の種は、子どもはもちろん、かかわったすべての人の心に根付き、それぞれの芽を伸ばしているといえそうです。

 
▲2015年12月、バッタンバン州にて(撮影:川畑嘉文)

自身がママに。“夢を届けたい”との思いが新たに

2020年は教来石さんにとって、もう1つの理由から忘れられない年となりました。こちらはうれしい出来事で、ママになったのです。妊娠中に切迫流産になり、4か月間の寝たきり生活を経ての出産でした。

「子どもが生まれ、日々その温もりを感じられることで、世界の子どもたちに対する愛しさも何倍にもなったような気がします。子どもが生まれるのは当たり前のことではなく、いくつもの奇跡が重なってのことだと身をもって体感し、生まれてきたすべての子にいい人生を生きてほしいという思いもさらに強くなりました」

2022年9月に、World Theater Projectは10周年を迎えます。今はオンラインイベントを開催しつつ、10周年イベントへの準備を進めているそうです。活動再開時にどんな展開を見せてくれるか、多くの人が期待を寄せています。


▲Zoom上で開催された、オンラインイベントの様子

子どもといる時間は、奇跡の結晶

現在はメンバーとオンラインでミーティングすることが多いという教来石さん。やはりママになってもやりたいことを続けるのは大切? そう質問すると、ここでも「うーん」と少し考えてから話してくれます。

「大切かはわかりませんが、やりたいことを続けることが私の場合は必要だなと思います。普段は子どもと二人で過ごすことが多く、それは大変ながらとても楽しい時間ではあるのですが、どこかで社会から置いていかれているような感覚もあります。自分は今子どもの中に種をまいているのだと思うようにしていますが、移動映画館の活動も子育ても、見えない種まきなので時々不安になることがあるのです。そんな時、団体のミーティングなどにオンラインで参加する時間があることが、子育てにもいい影響を与えてくれているような気がします」


▲2015年9月、ボスコサンデースクールにて(撮影:黒澤真帆)

何かママ達にメッセージはあるか聞いてみました。「月並みなことしか言えませんが…」と答えてくれました。

「夫と子どもと公園でお弁当を食べる、というよくある光景に私はずっと憧れてきました。結婚も妊娠も出産も、当たり前にできることのようですが、私にはなかなか困難を極める道程がありました。ママになるまでの道程には、皆さまそれぞれ映画以上の物語があるのではと思います。なので特に疲れている夜などにはどうか改めて、“ママ”と呼ばれる奇跡を噛みしめてみてください。と自分に言い聞かせています(笑)」

最後に、ママたちにお勧めの映画を教えてもらいました。

「親が子どもの夢を後押しするような映画が好きなのですが、『リトル・ダンサー』(2000年イギリス)や『エール!』(2014年フランス)はお勧めです。映画ではないのですが、セサミストリートは小さいお子さんも楽しめて、様々な偏見を取り除いてくれる作品になっています。中学、高校生くらいのお子さんと観るのには『ブレッドウィナー』(2017年)や『ホテル・ムンバイ』(2018年)、『FUNAN フナン』(2018年)など世界のことを考えられるような映画をお勧めしたいです」

関連リンク

▼World Theater Project
https://worldtheater-pj.net/

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